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イギリスの福祉制度の実情と貧困を描いた傑作 『わたしは、ダニエル・ブレイク』感想

『わたしは、ダニエルブレイク』を公開日に観てきました。

ずっと観たかった作品なんだよね。

実はここでも紹介しています。

works-movie.hatenablog.com

 

 とってもいい映画だったよ。。。

感想などつらつら述べていくので、参考までにどうぞ。

 

『わたしは、ダニエル・ブレイク』

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(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016

 

本作はカンヌ映画祭の最高賞・パルムドール受賞を果たし、これはケン・ローチ監督にとって『麦の穂をゆらす風』に次ぐ二度目の受賞となる。

彼は映画を通してイギリスの様々な社会問題を描く事で知られているが、本作も同様にイギリスの弱い立場にある人々に焦点が置かれる。

予告編

 

あらすじ

イギリスの福祉制度の実情と、それを満足に享受することができない貧困状態にある人々の姿が描かれる。

 

心臓に病を患い医師から仕事を止められたダニエル・ブレイクは、医療補助を受けようとするものの、国の課した複雑なシステムに戸惑い給付をうけることができずにいた。

融通の利かない役所の職員にダニエルは手を焼き、そしてまたシングルマザーのケイティもそのようなどうしようもない状況に居た。

二人は手を取り合い、懸命に生きていくのだが…

 

感想

以下、感想です。

この作品はほとんどBGMもなく淡々と人々の後姿を追っている。

それがケン・ローチ監督の本気具合を窺わせる。

巨匠によるこれほどまでの熱意がこもると、なんの脚色というか、余計な手をくわえずともこのような作品になるのだな、というのが実直な感想。

ハリウッドの大スターが大金持ちの役を演じる映画と真逆もいいところだ。

目立って有名な役者もいないし(主演のデイブ・ジョーンズはコメディアンです)。

 

そして貧困を映しとっていると言っても、空腹にあえぎ、地べたを這って乾いたフランスパンをかじるような描写をするわけでもない。

貧しくとも人々が忘れない、隣人に手を伸ばすような優しさの中にそのようなテーマを紛れ込ませているのがこの作品の一番すごいところ。

観たらわかると思うけど、そういう描写がガツンと心に響くんだよね。

 

ケイティとダニエルはもちろん恋愛関係になるわけではないです。

親子くらいの年の差だしね。

でもお互い身寄りもないし、同じ境遇にあるから支え合うんだけど、その優しい生活が余計切ない。

 

本当に苦しんでいる人がそういう権利を享受できているのか。

ダニエルは頼れる身内もおらず、インターネットも扱えない。

役所の職員は、全て申請はオンラインでのみ受け付けるとしか言わない。

仕事をしてはいけないという診断を受けているのにもかかわらず、求職活動を証明しないと保護を受けることができないという矛盾。

形式に頼る、官僚的なシステムに対する静かな怒り。

同じ言語を用いてるのにもかかわらず、届かない言葉。

 

職員からしたら、ダニエルは面倒な老人としか目に映らないだろう。

僕がその立場だったら、厄介なじーさんだな、と一蹴しないと言い切ることはできない。

何がそんな状況を作り出してしまうんだろう。

一概に職員が悪いと決めつけることもできないと思う。

システムなのかな。国なのかな。

 

福祉制度というと、生活保護が今一番センセーショナルな話題だと思う。

ダニエルが履歴書を送った会社の人事に言うんだよね。

「履歴書を送ったのは、保護を受けるためだ」と。

人事はこういう。

「堅実な男だと思ったのに、お前は保護なんかで生活しようという奴なんだな」

生活保護を受けるのは恥ずかしい事なのか。

こういう認識を導くのは、きっと不正自給など、ニュースの受け売りなのかもしれない。

 

二人は、社会的にとても弱い立場にある。

まだ幼い二人の子を持ち、頼れる人物の影もないシングルマザーのケイティ。

子供を学校に送りながらではとてもではないけど仕事して満足な生活費を得ることもできない。

そして妻を亡くし、心臓病をわずらう初老のダニエル。

そんな彼らのお互いに手を取り合う姿、考えさせられるシーンがたくさんある。

 

もし興味があればどうぞ、ぜひ観てください