遠く 知らない街から 手紙が届くような

ビジネスにも自己啓発にも興味が無い経営者の嘆き

本当の不感症であるということ

不感症。一般的に定義されるものは性的接触に対して快感を覚えない人の性質を指すことだろう。

 

このブログでは度々自分が不感症であることを取り扱ってきたが、その意味は「滅多なことでは心を動かされない」というような心情のあり方であったように思う。

 

何についても楽しみや感動を見出せない、特に人間関係については全てが気怠く思える時期があった。というかフラットでその状態なのですが。そんな僕も、鋭く突きさす様な痛みをくれる女性と出会った。

 

 

www.worksmovie.com

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その女性と、飲みに行ってきた。どうしても書きたいので、書きます。

 

結論から言うと、彼女は僕よりも不感症だった。

 

彼女と会話のリズムが絶望的に合わず、彼女の魅力を存分に引き出せず、むしろ悪い側面ばかり見つけてしまった。けれどその会話の節々のトゲは余計に痛みを伴うもので、彼女がどんな時に悲しむのか。どんな時に楽しいと思うのか。どんな時、泣いたり笑ったり、寂しくなったり、幸せな想いを感じるのか、それらを僕に無性に知りたくさせた。そう思ったときには時すでに遅く、頑張ったつもりではいたがなかなか会話も盛り上がらず、ペースもつかめずに手持無沙汰になった。

 

彼女は感情を全く表に出さない女性だった。悲しいとか楽しいとか嬉しいとか、確かに言葉の上ではそのような表現もあったが、彼女の心のあり方が全くつかめなかった。算数のテストのように、いちたすいちは何か、そんな問答が続いてしまった。

 

それでも彼女は何も気にしていないようで、落ち着き払っていて、何を考えているのか全く分からず、恐らく何も考えていないのだった。

 

 

本当の不感症とは。

自分が不感症に陥っている事すら感じなくなることではないのか。

そうして、目の前の相手に興味を持てず、どう在りたいかという事を見失うことではないだろうか。

 

 

彼女が、引いては自分が不感症ではないという事を証明したかった。なんてエゴイズムなのだろう。その前に、魅力的な人間であれた自信がない。もっとうまくやっていたら、少しでも状況は違ったかもしれない。

 

それでも、帰り道の暗がりを恐れる彼女の様子が愛おしくてたまらかった。なんでもいい。価値観?人生観?リズム?ペース?相性?セックス?そんなの知らん、彼女のことを無性に抱きしめたくなってしまった。

 

これはまぎれもなく痛みであり、鋭いものから鈍い音を伴うものへと段々変わっていった。彼女を初めて抱きしめた時に覚えたやりきれない想いは、間違っていなかった。

 

この痛みがいつか、彼女にも伝わればいいのに。

痛みをくれる人

id:punkrockes それでも人に会い続ければ突然激しい痛みを与える人物と出会いそして自分は不感症ではないと再認識しその痛みを掘り下げると今まで気にもしていなかった細い路地を見つける。知らんけど。

 

何て瑞々しい横顔なのだろうと思った。長い睫毛。控えめな唇。崩れそうな白い肌。どうしても触れてみたい、けれども、触れ方がわからない。どんな想いを込めても、彼女には触れられない、そんな気がしたのだ。

 

一晩中彼女は、僕と逆の方を向いて寝ていた。気を張っているのがありありと伝わってくるほど。後ろからそっと抱く形で寝た。そのくせ僕の心拍数の高まりが、少しでも彼女に伝わらないことを祈った。それは、水を抱くような感覚で、僕を無性に悲しくさせた。

 

朝、僕らの方が早く目覚める。本当は、僕は一睡もできなかったのだが、彼女が目を覚ましたので眠れたか小さな声で訊くと、少しだけ、と彼女は囁いた。僕は文庫本を手に取り、どうしても読みたい一節を読んでいた。何度も何度も読み返した、作者のあとがきだった。

 

彼女は僕の方を向くと、自分の身体を摺り寄せ、本当に、本当に控えめに僕を抱いた。朝方になり、初めて彼女の方から触れてきたので、すこしだけドキッとした。それは抱いたと表現していいのかわからなくなるほど、初めて異性の身体に自分から腕をまわしたのかと訊ねたくなるほど、そっと水を撫でるように、彼女は僕を抱いた。どうしてもその彼女の抱き方が愛おしくて、思わず僕は、そっと文庫本を置き、彼女を引き寄せ、抱きしめた。いじらしく、何かを求めるような彼女のあり方にやりきれない想いを感じた。だから余計に力強く抱いた。

 

肩にそっとキスをすると、彼女は怒った。優しい怒り方だった。

 

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僕は、僕に鋭い刃を突き立てるような、そんな痛みが欲しかった。何をしていてもつまらなく感じ、半ばヤケな思いで日々を過ごしていた僕にとって、それは思いがけない出会いだった。

 

僕らがアヒージョだったら。僕はきっと冷凍用のブロッコリーをこれでもかというほど塩辛く煮込んだ600円弱でバケットは別料金という粗末な代物。彼女は、上等な油で宝石を煮込んだようなアヒージョだった。良く例えがわからないだろう。それくらい僕とは別の世界に浸っていた女性だという事だ。

 

心が揺さぶられる様な、とめどなく溢れてしまうような、そんな心のあり方が非常に辛かった時期がある。

 

好きになること。信じること。どう考えたって蛮勇だ。どうして人はそんなに簡単に誰かと一緒にいたいと思ってしまうのだろうか。けれども、そんなことを知りながらも、痛みを求めてしまうような瞬間が、ようやく訪れ、まだ死んでいなかったのだということを知った。

 

入り組んだ路地で思いがけず出会った。それがどれだけ深いものだったのかは、まだわからない。

不感症

昨日デートしてきた。とてもかわいい女の子だった。年は同じで、興味を持った国には一人で飛び立ってしまうような主体性の持ち主の子だった。正直言って、一緒にいるのが憚れるくらい魅力的な女の子だった。

 

彼女の優しそうな笑顔に、ある種の冷たさを感じた。何故だかわからないけれど、その優しさは、優しさから生まれたものではなく、もっと行方のないものに触れているような感触だった。

 

彼女を十分楽しませられた自信はある。それなりに楽しい時間だった。それなのに、僕の心は一ミリも動かなかった。何か特別なことを感じたわけでもなかった。彼女は僕に似ていた。けれど、僕の根源を形作る決定的な何か、淡い「期待」の様なものが彼女にはなかった。食事代は御馳走したが、お礼の連絡は来なかった。同じように、僕も彼女の心を一ミリたりとも動かすことはできなかったのかもしれない。

 

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思えばいつか冗談で言われた不感症になってしまったようだ。映画を観ても小説を読んでも、何をしてもこの頃面白くない。新しい人物と出会っても、心を揺り動かされることもなければ一緒に居たいと思う事もない。それは自分が願った姿では決してない。それなのに、一人で居たい様な、誰とも居られないような気になる。そうして一人でつまらないと呟いている。

 

このまま一人で居てはいけないのかもしれない。人生とはなんだ?お前を駆り立てるものはなんだ?そうしてまた、誰かが心をこじ開けズカズカと土足で踏み込んでくることを、淡い期待として抱いている。それが僕にとって、最も許せない行為だとしても。

『ノルウェイの森』主人公による最高の ”口説き文句と台詞” を紹介する

ノルウェイの森』は僕が最も好きな文学作品のうちの一つと言ってもいいくらい何度も読み直した。そもそもこの作品と出会ったのは僕が中学2年生の頃であり、僕の人生を変えた作品と言ってもいい。初めてこれを読んだときの衝撃は本当に大きなものだった。

 

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さて、本作の一番の魅力はなにか?キャラクターの濃さと言っても良いかもしれないが、一番は主人公のキザなセリフではないだろうか。今回は主人公である渡辺がヒロインに投げかける口説き文句を紹介していきます。

 

ノルウェイの森』の主人公による最高の口説き文句はこれ

本当はたくさん好きなセリフはあるのだけれど、今回はヒロインに対する口説き文句に絞らせてもらおうと思う。実はこのうちの一つを実際に女の子に使ったことがあるのはもはや黒歴史を超えて笑いのネタにしているという事は言うまでもない。

 

ということで、主人公ワタナベの最高の口説き文句、紹介していきます。

 

1, 山が崩れて干上がる海

 

「すごく可愛いよ」

「ミドリ」と彼女は言った。「名前つけて言って」

「すごく可愛いよ、ミドリ」と僕は言いなおした。

「すごくってどれくらい?」

「山が崩れて海が干上がるくらい可愛い」

 

山が崩れて海が干上がるくらい可愛い…どんだけ可愛いんだよ!

 

しかしながら、流石である。どれくらいか?という質問を恐れている男性も多いなか、瞬時にこの気の利いた文句で返す彼の瞬発力は本当に羨ましい限り。彼女の要望に応えておきながら冗談めかしにすることで自分の気持ちをさらけ出すことを回避しているのだ(この時点ではまだ主人公はミドリという女性をそれほど求めてはいない)。

 

表現もユニークである上に、ヒロインでもある小林緑が素直でかわいらしく、やはりこの二人の掛け合いは最高というほかない。

 

 2, 春の熊

 

「もっと素敵なこと言って」

「君が大好きだよ、ミドリ」

「どれくらい好き?」

「春の熊くらい好きだよ」

 

春の熊くらい好き…訳が分からん

 

先ほどの会話に続き「どれくらい可愛いか」に引き続き「どれくらい好きか」訊ねられた主人公はまた訳の分からない返しをするのだが、やはり流石である。どう答えればいいのかわからずに閉口してしまい、雰囲気がしらけるという事を、この男は絶対にさせないのだ。つまらない男は一番いけない。

 

ちなみに主人公のワタナベは、ミドリに意図を問われ、春の熊を解説し始める。

 

「春の野原を君が一人で歩いているとね、向こうからビロードみたいな毛並みの目のくりっとした可愛い子熊がやってくるんだ。そして君にこう言うんだよ。『今日は、お嬢さん、僕と一緒に転がりっこしませんか』って言うんだ。そして君と子熊で抱き合ってクローバーの茂った丘の斜面をころころと転がって一日中遊ぶんだ。そういうのって素敵だろ?」

 

適当に言ったんじゃなかったのかよ!それとミドリが好きであることはどう関係あるんだよ!と突っ込みたくなるけれど、これもまた素敵なお話を披露してくれるワタナベという男のことがますますわからなくなる。彼はエピソードお化けで、このような気の利いたお話を女を口説くためだけにストックしているのだろうか?男として完全に負けを認めよう。しかし、彼と一緒に居たらいつまでも楽しく過ごせるに違いない。

 

3, 虎とバター

 

「君の着るものは何でも好きだし、君のやることも言う事も歩き方も酔払い方も、何でも好きだよ」

「本当にこのままでいいの?」

「どう変えればいいのかがわからないから、そのままでいいよ」

「どれくらい私のこと好き?」と緑が訊いた。

「世界中のジャングルの虎がみんな溶けてバターになってしまうくらい好きだ」

 

え、なんか急に素敵。

ちなみに僕はこのセリフを当時好きだった人に言ったことがある。恥ずかしげもなく言ってしまうのはやはり若さであり、このセリフがあまり彼女にはピンとこなかったのか、スルーされたのもいい思い出である。

 

しかし前半の主人公のセリフも中々素敵で、全世界の男どもにこのセリフを毎日3回朗読させたいほど良い。

 

番外編

最後に幾つか、作中のセリフを紹介していきます。

 

「一つ忠告していいかな、俺から」

「いいですよ」

「自分に同情するな」と彼は言った。

「自分に同情するのは下劣な人間のやることだ」

 

これは恐らく永沢(寮の先輩)と主人公の最後の対面のシーン。わからないようでわかる。すごく強い言葉で、突き刺さり、身に染みる思いでこのセリフを受け止めた。しかし人間、みんなそんな強くないからね。

 

「本当に同じことなんだよ。遅い目の朝飯と早い目の昼飯の違いくらいしかないんだ。食べるのも同じで、食べる時間も同じで、ただ呼び方が違うんだ」

 

これも永沢のセリフ。ただ言い回しが好き。というか永沢が一番好きなんだ。

 

「じゃあ私、革命なんて信じないわ。私は愛情しか信じないわ

 

これはミドリのセリフです。健気で素直な彼女のものの言い方がすごく好き。

 

結び

以上、僕が好きな口説き文句とセリフ。どうでしょう、読んでみたくなりませんでしたか。皆さんが思っているよりとっつきやすいと思います。村上春樹はあまり好きではないんですけど、これだけはいつまでも好きな作品です

 

という事で、初めての村上春樹作品としては最適だと思いますし、良かったら手に取ってみてください。本当に最高です。