本作は見事な二項対立を描いている。
頭は良くないが思いやりに溢れ直情的なブルーカラーの父親、そしてインテリではあるが妻のことを顧みず不倫を繰り返す向こう見ずな作家。
作中では、キーパーソンである小学生の男の子が、母親を亡くし、また上記の作家と出会う事で、次第にブルーカラーのお父さんを蔑むようになる。彼は父親が無教養であることに嫌気が刺し、ついには父親に「お父さんなんかに何もわかるはずない」という悪態をつく。しかし彼は知らない、そんな父親が睡眠時間を削って身体を使っているからこそ、自分が飯も食えて屋根の下で眠り塾にも通って将来のことも考えることができているということに。
このあたりの心理描写が非常に身に迫るものがあった。
そういえば自分も、父親がバカで無教養の塊だと決めてかかり、どうせ言ってもわからないと説明を放棄し、勉強できる奴の方が偉いのだと心の中で怒鳴っていた時期がある。本当に愚かだった。
今回帰省し、就活があまりうまく行っていないことを父親に伝えた。すると彼から「うまく行かなかったら就職浪人すればいいがね」という予想外の言葉を頂いた。え、いいの?まさかそんなこと言われると思っていなかったので、心底驚いた。
そういえば、大学受験する時も「好きなところ受ければええ」と言って、入りたい大学全て落ちればまた家族の反対を押し切り「浪人すればええ」と言った。
父親は古い人間だ。それなのに。就活のことも、大学受験のことも、何も知らないのに。
お前の人生なんだから、と寂しそうに親父は言った。地元に帰って来いというのが口癖の親父。それでも俺がここに帰って来るはずはないということを、本当はわかっていたのかもしれない。